死の棘 / 島尾敏雄

死の棘 (1977年)

死の棘 (1977年)

以前読んだことを忘れないようにメモる。思いやりの深かった妻ミホさんが、夫の「情事」のために突然神経に異常を来たした。狂気のとりことなって憑かれたように夫の過去をあばきたてる妻、ひたすら詫び、許しを求める夫。読み始めはとても辛く重かった。若い私は愕然とした。でも30歳半ばになって振り返ってみると、わかる気がした。

島尾さんご自身も身を引き裂かれるような想いであったんだろう。一冊の本にするにはあまりに過酷だったのではないだろうか。いろいろな夫婦のかたちがある。二度読むには辛すぎてダメだけど、50代になった頃読めば、またもっと違った感覚になるんだろう。

確かミホさんは先日お亡くなりになられた。息子さんの島尾伸三さんは両親や生まれ育った土地についての写真集を出しておられた。とても静かだった。